学生アルバイトを採用する際の注意事項
大型連休も終わり、4月から新生活が始まった方も少しずつ慣れてきた頃でしょうか。
この時期、新生活の開始とともにアルバイトを始めた学生さんも多いことと思います。
厚生労働省では、特に多くの新入学生がアルバイトを始める4~7月までを期間として、
全国の大学生等を対象に自らの労働条件の確認を促すことなどを目的とした
「アルバイトの労働条件を確かめよう!キャンペーン」を実施しています。
近年、学生・高校生等(高専、短大、専門学校等を含む)のアルバイトをめぐるトラブルが社会的に大きな問題となっており、
このキャンペーン中は労働局などが出張相談を行ったり、啓もう活動を行ったりしています。
今回はこのキャンペーンを受け
事業主側の視点から、改めて学生アルバイトを採用する際に注意したいポイントについて確認したいと思います。
1.労働条件をきちんと明示しましょう
学生アルバイトといっても、労働者であることに違いはありません。
労働契約を結ぶ際には本人と契約を交わし、賃金も本人に直接支払います。
もちろん労働条件の明示事項も正社員等と変わらず、以下7項目については書面で明示することが必要です。
(※労働者が希望した場合は、電子メール等の送信によることも可能です)
労働条件の明示事項(労働基準法第15条第1項)
①労働契約の期間について
②期間の定めのある労働契約を更新する際の決まりについて
(更新の有無、更新上限、を更新する場合の基準)
③就業の場所・従事すべき業務とその変更の範囲について
④始業・終業の時刻、休憩時間、休日等について
(残業の有無、シフトの決め方等)
⑤賃金、昇給について
(賃金の決め方、計算方法、締日、支払日、支払方法等)
⑥退職・解雇に関すること
⑦契約期間内に無期転換申込ができることとなる有期労働契約の締結の場合は、
無期転換申込に関する事項及び無期転換後の労働条件について
さらに、アルバイトを短時間労働者として雇い入れたときは、上記の労働条件に加えて
昇給、退職手当、賞与の有無及び相談窓口(※)についてを
文書の交付等により明示する必要があります(パートタイム労働法第6条1項)。
※アルバイトからの相談に対応するための体制(相談窓口)の整備が必要です(パートタイム労働法第 16条)
2.シフト制で就労させる場合には…
学生は学業が本分です。
そのため、学業とアルバイトが適切な形で両立できるように配慮する必要があります。
学生への調査結果には「試験期間中も休めなかった、授業に出られないほどのシフトを入れられた」などという回答もあったようですが、
採用時に合意したシフトの変更等の労働契約内容の変更は
労働者との合意なく、使用者が一方的に急なシフト変更を命じることはできないことを改めて確認しましょう(労働契約法第8条)。
3.労働時間の適切な把握と管理は必要です
学生アルバイトも通常の正社員等と同様に
労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録する必要があります。
1日8時間、1週40時間(労働者数が10人未満の商業・サービス業は44時間)を超えて働く場合には、
当然、割増賃金の支払いが必要ですし、午後10時から午前5時までに働いた場合には、深夜割増も必要です!
※満18歳未満のアルバイトには、会社は深夜労働も残業(1日8時間、1週40時間を超えて働くこと)もさせることはできません。
4.条件を満たせば年次有給休暇も付与されます
以下の条件を満たした場合には、学生アルバイトにももちろん年次有給休暇を付与しなければなりません(労働基準法第39条)。
・週1日以上または年間48日以上の勤務する者で
・雇われた日から6カ月以上継続勤務し、
・決められた労働日数の8割以上出勤した者
また、学生アルバイトであっても
週の所定労働日が5日以上、又は週の所定労働時間が 30 時間以上の場合は、一般の労働者と同じ日数
週の所定労働時間が 30 時間未満の場合には、その所定労働日数に応じた日数
の年次有給休暇を付与する必要があります。
年に10日以上の年次有給休暇を付与される場合は、
1年以内ごとに5日の日数を必ず取得させなければならないことも正社員等と同じです!
5.遅刻・欠勤に対しての損害賠償や減給の制裁について
アルバイトの遅刻や欠勤などによる労働契約の不履行や不法行為に対して、
予め損害賠償額等を定めることはできません。(労働基準法第 16 条)
また、遅刻を繰り返す等によって職場の秩序を乱すなどの規律違反をしたことへの制裁として、
賃金の一部を減額する場合でも無制限に減給することはできません。
減給の制裁(労働基準法第 91 条)
・1回の減給金額は平均賃金の1日分の半額を超えてはならない
・複数に渡って規律違反をしたとしても、
減給の総額は一賃金支払い期における金額の10分の1以下でなくてはならない
6.アルバイトの社会保険等について
アルバイトの労働保険、社会保険についても基本的には正社員等と同様に考えればいいのですが、
各保険によって取扱いが若干異なるため注意が必要です。
労働保険(労災保険・雇用保険)
労災保険
雇用形態に関係なく、すべての労働者に加入義務があります。そのためアルバイトの方も当然適用されます。
業務上又は通勤途上の事故にはもちろん正社員と同等の給付を受けることができます。
雇用保険
雇用保険の被保険者は
① 週所定労働時間が20時間以上で、
② 31日以上の雇用見込みがある場合の方
となりますが、原則、昼間学生は被保険者とはなりません。
ただし、例外があります。
社会保険(健康保険・厚生年金保険)
社会保険の場合、どのような事業所にお勤めかによって適用されるかどうかが変わります。
ケース① 適用事業所に使用される場合
週所定労働時間と月所定労働日数がフルタイムの4分の3以上の場合、
正社員等と同様に一般被保険者として被保険者となります。
ケース② 特定適用事業所(1年のうち6月間以上、厚生年金保険の被保険者の総数が101人以上となることが見込まれる企業等のこと)や
任意特定事業所または国・地方公共団体に属する事業所に勤務する場合
フルタイムの4分の3未満で働く方のうち、次の条件をすべて満たす方は被保険者となります。
(1)週の所定労働時間20時間以上
(2)所定内賃金が月額8.8万円以上
(3)学生でない
※例外※
学生の場合でも、上記雇用保険の被保険者となる場合と同様のケースについては被保険者となります。
学生アルバイトの方は親御さんの被扶養者となっている方も多いと思われますので
社会保険に加入するような働き方となる場合
予め扶養を外れることについての説明も丁寧にする必要がありますね。
7.満18歳未満のアルバイトを雇用する場合
満18歳未満のアルバイトを就労させる場合は、
事業場に年齢を証明する書面(住民票記載事項証明書や戸籍記載事項証明書等)を備え付けることが必要です。
戸籍記載事項証明書(一部記載事項証明書)については、労働基準法第111条により、
労働者の本籍地の市町村長もしくは区長に無料で証明を請求することができます。
この請求は労働者からだけではなく、使用者からも請求できますので確認しておきましょう。
また、上記3でも言及したように、満18歳未満のアルバイトの場合
1日8時間、1週40時間を超える時間外労働や深夜労働(午後10時~午前5時)の労働はさせてはなりません。
8.まとめ
学生アルバイト、といっても「労働者」であることには変わりはありません。
雇用保険や社会保険の適用時に特別な扱いをすることがありますが
それ以外は通常の社員と同様に労務管理をする必要があります。
これを機に自社のアルバイトへの対応を見直すとともに、
改めて社員全体の労務管理方法についても目を向けるきっかけとしていただければと思います。
(ご参考)
厚労省HP
令和6年度「アルバイトの労働条件を確かめよう!」キャンペーンを全国で実施します
自主点検表「高校生等アルバイトの労働条件に関する自主点検表(18歳未満のアルバイトを雇う場合はこちら)」
別添3 事業主のみなさんへ アルバイトの労働条件を確かめよう!キャンペーン中です
雇用保険の加入要件を教えてください:【被保険者の詳細、被保険者となる具体例について】)
スタートアップ労働条件
アルバイトを雇う際に知っておきたいポイント
日本年金機構HP Q&A
私は、パートタイマーとして勤務しています。社会保険に加入する義務はありますか。
学生は、4分の3基準に該当していても、学生という理由のみをもって健康保険・厚生年金保険の被保険者とならないのですか。
山梨労働局HP
労働基準Q&A 高校生や中学生などを雇用するときの注意点