雇用保険法の改正について

前々回、育児介護休業法の改正が審議入り(※5月31日に公布されました)という内容を取り上げましたが
今回は雇用保険法に関連した改正についてご案内します。

先月5月10日に改正雇用保険法が成立。
さらに、6月5日に成立した「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」にも雇用保険法の改正が盛り込まれており、
それぞれ順次施行されることとなりました。

今回の改正も実務に影響が出てくる内容ですので、これらの改正について主要な部分を確認してまいりましょう。

1.雇用保険法等の一部を改正する法律について(令和6年5月10日成立)

こちらの改正の大きなポイントは2つ。
雇用保険の適用拡大教育訓練やリ・スキリング支援の充実です。

その他にも、育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保のために国庫負担を見直す改正なども行われましたが
今回は2つに絞ってご案内します。

① 雇用保険の適用拡大

働き方の多様性が広がる中、雇用のセーフティネットを拡大しようという目的で
雇用保険の適用拡大がなされることになりました。
これまでの「週所定労働時間が20時間以上」という雇用保険の加入要件が「週所定労働時間が10時間以上」へと変更されます。
これによって、パートやアルバイトなどの短時間勤務で働く方たちも雇用保険に加入する方が増え
失業給付や育児休業給付金等を受けることが可能になるという改正です。

② 教育訓練やリ・スキリング支援の充実

個人の主体的な学び直しやリ・スキリングへの支援を強化し、
それによる賃金上昇や再就職等につなげていくことを目的として改正が行われることになりました。

給付制限の見直しについて

現在、自己都合で退職した方が失業給付を受給する際、
待期期間満了から原則2カ月給付が受けられない「給付制限」があります。
この給付制限が、通達の改正により1カ月に短縮されます。
また、その方が自ら雇用の安定・就職の促進に必要な職業に関する教育訓練等を受けた場合、給付制限自体を解除する、
改正も行われます。(下図)

 厚労省資料「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」より引用
教育訓練給付金の拡充

厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講・修了した場合にその費用の一部を給付する「教育訓練給付金」
その給付率上限が改正により、70%から80%へ引き上げられることとなりました。
さらに、教育訓練を受講したことで、賃金が増加した、資格を取得した等を要件にした追加給付(10%)も創設されます。

教育訓練中の生活を支える給付の創設

自発的な能力開発を支援するため、被保険者が教育訓練のための休暇(無給)を取得した場合、
新たな給付金を創設する
ことになりました。

2.子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律(令和6年6月5日成立)

こちらは、児童手当の拡充等をはじめとした
子育てに係る経済的支援の強化子育て世帯を対象とした支援の拡充共働き・共育ての推進に資する施策の実施
に必要な措置を講じることを目的に行われた改正です。
中でも、雇用保険法等では「共働き・共育ての推進」を目的とした以下のような改正が実施されることとなりました。

① 出生後休業支援給付の創設

子の出生直後の一定期間以内(※1)に、
被保険者とその配偶者の両方が14日以上(※2)の育児休業を取得する場合、

休業開始前賃金の13%相当額を支給する、「出生後休業支援給付」が創設されます。
( ※1 男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内 ※2 被保険者の休業期間について28日間を限度とする )

これにより、両親ともに一定期間に育休を取得するとその間の実質的な手取りが10割相当額となります。
「手取りが実質減らない」ということで、男性の育児休業取得を推進する施策と期待されています。

② 育児時短就業給付の創設

時短で働いても家計に安心をもたらすようにということで
雇用保険被保険者が2歳未満の子を養育するために時短勤務をしている場合、
時短勤務中に支払われた賃金額の10%を支給する「育児時短就業給付金」も創設されます。

改正の施行期日一覧

これらの改正の施行期日を表にすると以下のようになります。

まとめ

会社側として、今回最も関心の高い改正内容は「雇用保険の適用拡大」についてではないでしょうか。
実際、既に法案成立前から「パートさんの雇用保険が変わると聞いたのですが…」とご相談を受けております。
適用まではまだしばらく時間がありますが、
週10~20時間の間でご勤務されている短時間勤務の方は多くいらっしゃることと思います。
ご本人の保険料負担の目安なども示しながら、早めに双方で内容を理解しておきたいですね。

また、育児時短就業給付についても、対象となりそうな方たちへの制度案内が必要です。
教育訓練休暇給付金の創設によって、教育訓練のための休暇制度について検討することも必要になるかもしれません。

子育て関連、リ・スキリング関連の法律は今後も改正が多く入る分野だと思います。
一つ一つ情報を取りこぼさないように確認したいものです。

(ご参考)
厚労省HP
 令和6年雇用保険制度の改正内容について(雇用保険法等の一部を改正する法律)
 「雇用保険法等の一部を改正する法律」の改正内容
 令和6年雇用保険制度の改正内容について(子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律)
 「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」の改正内容
こども家庭庁HP
 「こども未来戦略
 「こども未来戦略MAP」