社会保険適用範囲の見直しについて
今年令和6年(2024年)10月、
従業員数50人超の企業で働く短時間労働者が要件をすべて満たす場合
社会保険への加入が義務化される法改正が行われます。(年金制度改正法)
対象企業の皆様、ご準備は着々と進んでいらっしゃいますか?
現在、厚生労働省では「労働者にふさわしい保障を実現し、
働き方の選択に中立的な社会保障制度の構築を進めること」を目的に
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用範囲の見直しが行われています。
この10月に行われる法改正もこの一部ということになります。
先日、これまでの状況を踏まえつつ、今後の対応の在り方について
厚生労働省の「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」で
行われていた議論が取りまとめられました。
中でも今回は、今後見直しが行われるであろう内容について絞ってご紹介したいと思います。
適用範囲見直しの背景
フルタイムで働く方を対象とする仕組みで運用されてきた健康保険・厚生年金保険ですが
働き方の多様化が進む中、様々な課題に直面しています。
例えば、被用者(企業に雇われて働いている)にもかかわらず、社会保険へ加入できずに低年金となってしまっていたり、
同じ業種で働いていても、その会社の規模や働き方によって社会保険へ加入するかどうかが変わってしまったりという不公平感、
社会保険の制度によって働き方を制限する状況(いわゆる「年収の壁」を意識した就業調整)があるという働き方選択の歪み…など。
このような状況を踏まえ、以前から次期年金制度改正に向けて検討・実施すべき項目として
以下4点があげられていました。
では、これらに対して今回の懇談会ではどのような結論が出されたのでしょうか。
と、その前に・・・
ここで改めて現在の社会保険の適用要件を確認しておきましょう。

今後の社会保険の適用の在り方について
この「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」では
今後の在り方について上記に示した4点の検討項目に加え、複数事業所で勤務する者についてなども議論が行われました。
短時間労働者への適用拡大も、
労働時間要件の引き下げ、賃金要件の引き下げ、学生除外要件、企業規模要件、と細かく検討が進められました。
その結果、引き続き議論や検討が行われる必要があると結論づけられたものも多くありましたが
変更の方向性がより明確に示されたものもありました。
それが以下の3点です。
(1)企業規模要件は撤廃の方向へ
短時間労働者のうち、週所定労働時間が20時間以上、賃金月額8.8万円以上の労働者が
企業規模によって社会保険の適用対象かどうかが決まることは、経過措置として設けられた基準です。
平成28年(2016年)より企業規模要件は段階的に縮小されてきており、
労働者の勤め先や働き方、企業の雇い方に中立的な制度を構築する観点からも、
企業規模要件は撤廃する方向で検討を進めるべきとされました。
(2)常時5人以上を使用する事業所の非適用業種は解消へ
個人事業所への適用拡大に関しても
労働者の勤め先や働き方、企業の雇い方に中立的な制度構築のためには
まずは常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種を解消する方向で検討を進めるべき、とされました。
(5人未満を使用する個人事業所についての議論は検討を継続)
この結論は、これまで強制適用となる業種が断続的に追加されてきていることも考慮されています。
(3)フリーランス等は「労働者」なら確実に社保適用へ
「フリーランス」「業務委託」とされながら、実態は「労働者」と同様の働き方をしている場合
本来、その方は社会保険を適用されるべき方となります。
そのため、労働基準法上の労働者に該当する方には
確実に健康保険・厚生年金保険が適用されるよう取り組んでいくべきとされました。
また、令和5年(2023年)3月には労働基準監督署と日本年金機構が連携し、
適用要件の該当を調査する環境が整備されており、
引き続き労働行政と社会保険行政の連携強化を確認し、運用を着実に実行していくべきとまとめられています。
一方、「フリーランス」として自営業者に近い働き方をしている場合については
諸外国の動向を注視しつつ、中長期的な課題として引き続き検討していく必要があるとされました。
まとめ
今後、厚労省の目指す「勤労者皆保険」に向けての議論がより進んでいくことと思われます。
それらの議論を進める中で「企業要件の撤廃」「個人事業所における非適用業種の解消」という論点は
中小零細企業にとってはかなりインパクトの大きい話です。
今回の懇談会では、適用拡大に伴う企業側の事務負担の増加、保険料発生による経営への影響等に対する懸念について
必要な支援策を講じる等、環境整備が必要であるとまとめていますが
企業側としても今から社内の対応について検討していく必要があると考えます。
また「フリーランス等の労働者性」については、
現在締結されている業務委託契約の内容が雇用契約に近いものとなっていないかどうか、改めて確認したいものです。
監督署の調査のみならず、税務調査でも指摘されるポイントですので、
今一度、契約内容と実態を合わせて再検討をしてみてはいかがでしょうか。
今後この議論の結果は、引き続き他部会等でも検討を続けられ、次期年金制度改正へも影響があるものと思われます。
現在の状況を再確認し、改正が行われた際にはどのように対応していくかを少しずつご検討いただければと思います。
(ご参考)
厚生労働省HP
社会保険適用拡大 特設サイト
短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大に説明資料
第1回「働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会」(資料2)働き方の多様化と被用者保険の適用の現状について
リーフレット「労働保険・社会保険(厚生年金・健康保険)への加入手続きはお済みですか?」
被用者保険のさらなる適用促進に向けた労働行政及び社会保険行政の連携について
日本年金機構HP
短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集(令和6年10月施行分)
短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大