在職老齢年金制度について
今年は残暑が厳しく、10月に入ってからもまだ夏を思わせる陽気の日もありますね。
とはいえ、朝晩は秋らしい冷えを感じつつありますので、体調管理には気をつけたいものです。
さて、そんなまだまだ暑かった先月30日、
経団連が2025年の年金制度改革に向けて基本的見解を示しました。
その中で在職老齢年金制度については
「2025年の制度改正では対象者の縮小にとどめ、
2030年改正において、制度の廃止に向けて本格的に検討すべき」とまとめられました。
経団連は
60歳代後半以降も働ける制度がある企業の割合が今後も増加すると想定するも
現行の在職老齢年金に対応するため、65歳以降の社員の基本給水準を下げている企業もあり、
在職老齢年金制度が就業意欲にマイナスの影響を与えているとも考えられる、ということで
ゆくゆくは在職老齢年金制度の廃止を検討すべきとの見解を打ち出しました。
私自身も定年後再雇用で賃金が引き下げられ、
働くモチベーションが下がってしまい、そのまま退職されていった方を目にしたこともありますし
「働けば働くほど年金がもらえなくなる」という世間のイメージが
働く意欲を阻害してしまっている面があるのもうなずけますよね。
今回はこの在職老齢年金制度について、どのようなものなのか改めてご紹介したいと思います。
1.在職老齢年金制度の概要
在職老齢年金制度をひとことで言うと
働きながら老齢厚生年金を受給している方の賃金と年金額の合計が一定額を上回ると、
年金の額が一部又は全額支給停止となるというものです。
詳しくみていきましょう。
(1)対象者
厚生年金保険の被保険者として働きながら、老齢厚生年金を受給している方
(2)年金の一部または全額が支給停止になる場合
老齢厚生年金の月額+賃金額(標準報酬月額+過去1年間の賞与額÷12)が、50万円(支給停止調整額)を上回る場合
(3)支給停止となる額
(賃金額と年金月額の合計)-50万円)÷2
例えば…
標準報酬月額と過去1年間の賞与額÷12の合計が38万円、年金月額が16万円の場合
支給停止額は (38万円+16万円-50万円)÷2=2万円 です。
→支給される老齢厚生年金の月額は16万円-2万円=14万円となります。
(4)支給停止期間
賃金額と年金月額の合計額が50万円(支給停止調整額)を超えている期間
(5)支給停止額の変更時期
総報酬月額相当額が変わった月または退職日の翌月
2.注意事項
この在職老齢年金にはいくつか見落としがちな注意点があります。
(1)支給停止の基準となる「支給停止調整額」は毎年4月に見直しがある
→令和6年度の支給停止調整額は50万円ですが、
この額は毎年4月に現在厚生年金に加入している男性の「賞与を加味した平均月収額」を基準に見直しが行われます。
今後も変動することが考えられますのでご注意ください。
(2)支給停止になる年金は加給年金(★)を除く老齢厚生年金
★加給年金とは厚生年金の被保険者が65歳に達した際、配偶者や子供などを扶養している場合に
老齢厚生年金に加算される年金。
→老齢厚生年金が全額支給停止となる場合は、加給年金も停止となりますが、
一部停止の場合は加給年金は全額受給できます。
(3)老齢基礎年金は全額支給される
→支給停止になるのは、老齢厚生年金の部分のみです。
老齢基礎年金(国民年金)は支給停止とはなりません。
(4)70歳以降の方は厚生年金の被保険者とはならないが、
厚生年金の加入条件と同程度で働く場合は、70歳以降でも支給停止の対象となる
→なお、70歳以降の方は厚生年金の被保険者ではないため、保険料の納付は発生しません。
(5)在職老齢年金で支給停止される額は繰り下げ加算額の対象外
→年金は繰下げを希望すると、ひと月あたり0.7%の増額加算が受けられますが
支給停止となった額には加算対象外です。
3.さいごに
経団連では、極力多くの高齢者に引き続き経済活動に参加してもらい、
社会を支える側に立ってもらうことが今後一層重要となるとしています。
少子高齢化、人手不足の深刻化、働き方の多様化・・・といった変化が進む中で、
年齢にかかわりなく、働き方に中立な制度構築の一部として
在職老齢年金制度の在り方は今後ますます議論の対象となると考えられますので
今後の年金制度改正は十分注視していく必要があります。
参考)
●経団連
次期年金制度改正に向けた基本的見解
●厚労省
[年金制度の仕組みと考え方] 第10 在職老齢年金・在職定時改定
●厚労省特設サイト 一緒に検証!公的年金~年金の仕組みと将来~
50~60代のみなさんへ
●日本年金機構
在職中の年金(在職老齢年金制度)
在職老齢年金の計算方法
ねんきんネットとは?
「ねんきんネット」による年金見込額試算
在職老齢年金の支給停止の仕組み(働きながら年金を受けるときの注意事項)