賞与支給時の社会保険の取扱い
12月は冬季賞与や年末賞与を支給するという会社も多い月ですね。
政府の毎月勤労統計によると、昨年(2022年)の年末賞与の1人平均支給額は、事業所規模5~29人で27.5万円、
30~99人で35.5万円と前年より増加しており、支給事業所割合は、5~29人が67.3%、30~99人が90.1%で、
6割以上の事業所で年末賞与の支給が行われているというデータがあります。
今月は社会保険手続きの観点から、
「賞与」として取り扱うべきものや、賞与を支給した際に必要な手続きとその注意点等を改めて確認したいと思います。
賞与とは?
まず賞与として取り扱うものを確認しましょう。
一般的に「毎月のお給与以外に夏と冬等、決まった時期に支給されるもの」という認識があると思います。
賞与は、各会社で就業規則に支給の有無や支給時期等が定めらており、
それに沿って支給が行われるため、いつも決まった時期に支給されるというわけです。
※賞与は、就業規則の「相対的必要記載事項」です。
定めをする場合には必ず就業規則に記載しなければならない内容の一つですのでご確認ください※
社会保険を取り扱う上では、賞与は年3回以下の支給のものとされており、
年4回以上支給されるものは、いくら「賞与」という名称であっても、賞与としては取扱いません。
逆に、賃金、給料、俸給、手当、といったような「賞与」という名称でないものでも、
年に3回以下の支給であれば「賞与」として扱わなければなりません。
賞与の社会保険料について
社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)はもちろん賞与にもかかってくるわけですが、
毎月のお給与から控除される保険料とは異なり
賞与の支給額から1,000円未満を切り捨てた額(標準賞与額)に保険料率をかけて計算します。
この標準賞与額には上限があり、
健康保険は毎年4/1~3/31の一年度の累計額が573万円、厚生年金保険は1カ月当たり150万円とそれぞれ定められています。
同月内に2回以上賞与が支給される場合は合算した額で標準賞与額を計算し、保険料を控除するため
合算額に上限額が適用されます。ご注意ください。
さて、この賞与に係る社会保険料、会社はいつ納めるの?というご質問をいただくことがあります。
賞与分の社会保険料は毎月の保険料と合算されて賞与支払月の翌月の納入告知書で通知されます。
賞与支給後は、以下で詳しくご紹介する「賞与支払届」を提出します。
届出の内容は保険料の決定のために使用されるだけでなく、
将来受け取る年金額の計算の基礎となりますので、忘れずに対応しましょう。
賞与を支給した際の手続き
上述の通り、賞与を支給した場合、5日以内に年金事務所へ賞与支払届を提出する必要があります。
様式は日本年金機構のホームページよりダウンロードできますが、
賞与支払予定月を年金機構に登録されている事業所には、支払予定月の前月にこの「賞与支払届」が送付されます。
一方、予定月に賞与を支払わなかった場合は、「賞与不支給報告書」を提出します。
この不支給報告書は提出しないでいると賞与支払予定月の翌々月に督促状が来ますので、
支給がない場合は早めに対応することを心がけましょう。
なお、同一月内に2回以上賞与を支払った場合、
その月の最後に支払った日を賞与支払年月日として合算して標準賞与額を算出し、賞与支払届を提出します。
年4回以上支給される賞与の取扱いは?
年4回以上支給される賞与は標準報酬月額の対象とみなされ、
定時決定の際に算定基礎届へ含めて計算します。
※7~6月の1年間の賞与合計額を12で割った金額を、月々の報酬に合算して標準報酬月額を計算します。
保険料の控除に関する注意点
賞与支給月に退職者や産育休の取得がある場合は保険料の控除について注意が必要です。
いくつかのケースを見て確認してみましょう。
1.退職者に支給する賞与の取扱い
ケース① 賞与支給日12/10、退職日12/31
この場合、社会保険の被保険者資格喪失日は1/1となり、退職月の社会保険料の徴収は必要です。
したがって、賞与からの社会保険料控除は必要となり、資格喪失前の賞与支給のため、賞与支払届の提出も必要です。
ケース② 賞与支給日12/10、退職日12/15
このケースでは、資格喪失日が12/16のため、12月分の社会保険料は発生しません。
そのため、賞与からの社会保険料の控除は不要です。
ただし、賞与は退職日より前に支給されているので、賞与支払届には記載が必要となります。
ケース③ 賞与支給日12/20、退職日12/15
こちらもケース②と同様に資格喪失日が12/16のため、賞与にかかる社会保険料の控除は不要です。
その上、資格喪失後の賞与支給となるため、賞与支払届への記載も不要となります。
これらをまとめると、以下のようになります。
ケース | 賞与支給日 | 退職日 | 社保資格喪失日 | 退職月の社保料控除 | 賞与からの社保料控除 | 賞与支払届への記載 |
① | 12/10 | 12/31 | 1/1 | 要 | 要 | 要 |
② | 12/10 | 12/15 | 12/16 | 不要 | 不要 | 要 |
③ | 12/20 | 12/15 | 12/16 | 不要 | 不要 | 不要 |
2.育休を取得された方への賞与支給
毎月のお給与では、産休・育休を開始した月から育児休業等の終了日の翌日の前月まで社会保険料が免除されます。
しかし、賞与に係る保険料免除要件は少し異なります。
賞与保険料の免除対象となるのは、連続した1カ月超の育休取得者に限ります。
連続1カ月超の育休期間中に月末が含まれる月に支給された賞与の保険料が免除されることになります。
ケース① 賞与支払日 12/5、育休期間12/16~1/20
この場合、育休期間が1カ月を超えており、育休中に月末がある12月に支給された賞与の保険料は免除されます。
ケース② 賞与支払日 12/5、育休期間12/16~1/3
この場合は育休期間が1カ月以下であるため、育休中に月末があっても12月に支給された賞与の保険料は免除されません。
なお、両方のケースともに給与の社会保険料は免除されますのでご注意ください。
まとめ
何もなくても12月は気忙しい時期です。
それに加えて年末調整あり、賞与計算あり…と、ご担当の皆様はお忙しい時期だとは思いますが
賞与計算、賞与支給に伴うお手続きについてもポイントを押さえ、滞りなく対応したいですね。
計算の方法、お手続きについてご不明な点等ございましたら、ご遠慮なくお問い合わせください。
ご参考
厚生労働省 毎月勤労統計調査令和5年2月分結果速報等 概況
日本年金機構 従業員に賞与を支給したときの手続き
賞与を支給したとき、賞与支払予定月に賞与が不支給のとき
全国健康保険協会 賞与の範囲
標準報酬月額・標準賞与額とは?