時間外労働の上限規制が猶予対象事業へもいよいよ適用されます
新しい年が始まりました。
今回は今年2024年から適用される法改正の中から、
以前より各種メディアなどでも注目されてきた「時間外労働の上限規制」について取り上げたいと思います。
労働時間についてのルールを再確認しましょう
まず、労働時間についてのルールを再確認しましょう。
労働時間は労働基準法によって上限が定められており、
労使の合意に基づいた所定の手続き(36協定の締結・所轄労働基準監督署長への届出)を取らなければ、延長することはできません。
1.労働基準法における労働時間の定め
労働時間・休日に関する原則
法律で定められた労働時間の限度は 1日8時間及び1週40時間
法律で定められた休日は 毎週少なくとも1回
→この原則を超える場合は、36協定の締結・届出が必要です!
つまり36協定を締結・届出していない場合、「原則」を超えて働かせることはできません。
2.時間外労働の上限規制とは
2018年に労働基準法が改正されるまで
時間外労働の上限については法律による制限はなく、
厚生労働大臣の告示によってのみ、その上限基準が定めらていました。
2018年に働き方改革の一環として、時間外労働の上限が罰則付きで法律に規定され
2019年4月から(中小企業は2020年4月から)その規制が適用されています。
(1)上限規制の内容
・時間外労働の上限は原則月45時間、年360時間
臨時的な特別の事情なく、この上限は超えることができません
・臨時的な特別の事情があって、労使が合意する場合(特別条項)場合でも
① 時間外労働が年720時間以内
② 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
③ 時間外労働と休日労働の合計について、2~6か月平均80時間以内
④ 月45時間を超える時間外労働は、年6回が限度
をすべて守らなければなりません。
・また、特別条項の有無にかかわらず、1年を通して常に
時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満、2~6か月平均80時間以内にしなければなりません。
これらをまとめてイメージ化したものが以下の図になります。
厚生労働省資料 「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」より
(2)上限規制の猶予・一部特例
この上限規制の適用を業務の特殊性等の理由から、
これまで猶予(又は一部特例付きで適用)されてきた事業・業務がありました。
具体的には以下の事業・業務です。
・ 建設事業
・ 自動車運転の業務(トラック・バス・タクシードライバー等)
・ 医師
・ 鹿児島県及び沖縄県における砂糖を製造する事業
これらの事業等についてもいよいよ2024年4月に上限規制が適用されることになります。
2024年4月以降、猶予対象事業ではどうなる?
基本的にはこれまで猶予されてきた事業等に対しても上限規制が適用されることになりますが
事業によって若干適用範囲等が異なりますので注意が必要です。
以下の表に適用されること・されないことをまとめましたのでご確認ください。
事業・業務 | 猶予期間終了後の取扱い(2024年4月以降) |
建設業 | ○ 適用されること 上限規制がすべて適用(※ただし、災害時における復旧・復興の事業を除く) × 適用されないこと 災害時における復旧・復興事業には 時間外労働と休日労働の合計について、 月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制 |
自動車運転業務 | ○ 適用されること 特別条項付き36協定を締結する場合の年間時間外労働の上限が年960時間 × 適用されないこと 時間外労働と休日労働の合計について 月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月までとする規制 |
医師 | ○ 適用されること 特別条項付き36協定を締結する場合の 年間時間外労働の上限が最大年1860時間(※指定理由に対応する場合) × 適用されないこと 月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月までとする規制 |
鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業 | ○ 適用されること 上限規制がすべて適用 ※猶予期間中も、時間外労働と休日労働の合計について、 月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とする規制以外は適用 |
36協定締結時の留意点
これから上限規制を適用される企業の皆様、
36協定の内容を改めて検討・確認は進んでいらっしゃいますか?
実際に上限規制を適用した内容で36協定を締結するのは、2024年4月1日以降に新しく締結する協定からとなりますが
(例:10/1~9/30で協定を毎年締結している場合、2024年10月からの協定で上限規制を受ける内容で協定を締結します)
締結時に留意すべき事項について厚労省から指針が出ておりますので、是非参考にしていただきたいと思います。
36協定で定める時間外労働・休日労働についての留意すべき事項に関する指針(抜粋)
① 時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめること
② 使用者は36協定の範囲内であっても、使用者は労働者に対する安全配慮義務を負う
→労働時間が長くなるほど過労死との関連性が強まることに留意すること
③ 時間外労働・休日労働を行う業務の区分を細分化し、業務範囲を明確にすること
④ 臨時的な特別の事情がなければ、限度時間(月45時間、年360時間)を超えることはできない
→限度時間を超えて労働させる必要がある場合は、できる限り具体的に定め、
この場合も時間外労働は限度時間にできる限り近づけるよう努めること
⑤ 休日労働の日数及び時間数をできる限り少なくするよう努めること
⑥ 限度時間を超えて労働させる労働者の健康・福祉を確保すること
また、監督署へ届け出る際に使用する協定届の様式も
これまで使用されていた猶予対象のものとは変更となりますのでご注意ください。
(2024年3月31日まで)
【適用猶予事業・業務(建設事業、自動車運転の業務、医師等)】
時間外労働・休日労働に関する協定届等 様式第9号の4~7
(2024年4月1日以降)
【建設事業(災害時における復旧及び復興の事業)を含む場合】
時間外労働・休日労働に関する協定届 様式第9号の3の2、3の3
※災害時における復旧・復興の事業を含まない建設事業の場合は、様式第9号、9号の2を使用することとなります。
【自動車運転の業務を含む場合】
時間外労働・休日労働に関する協定届 様式第9号の3の4、3の5
【特定医師を含む場合】
時間外労働・休日労働に関する協定届 様式第9号の4、5
※様式のダウンロードはこちらから→厚生労働省 主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)
自動車運転者については「改善基準告示」も改正
自動車運転者については、2024年4月よりこれらの他に
「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)に定める拘束時間等の基準も改められます。
バス運転者、タクシー・ハイヤー運転者、トラック運転者それぞれについて、
労働時間と休憩時間を合わせた「拘束時間」や勤務と次の勤務の間にある「休息時間」の基準等が改正されています。
詳細はここでは触れませんが、重要な変更となっておりますので是非こちらも合わせてご確認ください。
さいごに
4月の上限規制適用まであとわずかとなりました。
これまで猶予対象とされてきた事業の皆様も、そうでない企業の皆様も
改めて社内の労働時間管理体制に問題はないか、再度見直しの機会を設けてみてはいかがでしょうか。
ご参考
厚生労働省
時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務
適用猶予業種の時間外労働の上限規制特設サイト「はたらきかたススメ」
働き方改革特設サイト 時間外労働の上限規制
厚生労働省 改善基準って何ですか?